観光カリスマ 山田桂一郎氏 特別講演要旨
私は、スイスのツェルマットに在住し、エコツアーやグリーンツーリズムを中心に取組んでいるが、日本にもしばしば帰国し、様々な地域のアドバイスをしている。といっても、あまり名前が出ないようにしているが、これは主体は住民であるとの考え方によるもの。最近は金融不況の影響もあって、苦しいという悲鳴ばかりのようだが、私が手伝っている先は例外なく成功しているといっても過言ではない。観光は様々な人が絡んでいるが、トップが「エゴと利害」に冒されてゾンビ的存在になって、硬直的になっていることが多く、それと戦い解きほぐすことが真の観光活性化につながる。このため、自分自身のことを「ゾンビバスター」と位置づけている。
私は「そもそも何のために観光をするのか」を問いかけているが、重要なのは住んでいる人の満足感ではないかと思っている。旅で求められているのは「非日常より異日常」で、住んでよし、訪れてよしの豊かな環境とライフスタイルこそが大切なのではないか。私が住んでいるツェルマットは、住んでいる人が生活の質を上げたいため、街の色や高さを規制しているが、それが観光客にとっても心地良い環境を生み、人気になっている。
さて、長崎さるくに今後求められているものは何か。この会場に来てないような人、観光から一番遠い人を巻き込んで、「地域全体が良し」としていくことが重要。TVでも、鶴瓶などが街の人を主役にする番組に人気がある。これは、かつての長寿旅番組「兼高かおるの世界の旅」で人々のライフスタイルそのものを取り上げたのと共通する。外国では、観光客だけでなく地域に満足してもらう意識がないと失敗するといわれる。「勝ち残る」という言葉をよく聞くが、「誰に勝つのか? 」を問いかける必要がある。つまり「どこかを打ち負かしたところでいいことあるか?」という問いで、ダメな地域・事業者ほど自らの原因を振り返らず、ライバルを作りあげ、苦しい中で足の引っ張り合いして、さらに悪くなっていく。むしろ、大切なのは「勝ち残る」ではなく「価値残る」であり、価値がなければお客様から選ばれない。同じだと思えば安くて近い方に流れる。さらに、その「価値」をどう伝えるかを考えることも重要である。
また、地域が潤う仕組みが必要。鳥取の境港では、水木しげるブームで観光客は3百万人を超え、大成功とたたえられているが、実際の商店街の売上は急速に落ち込んで地域経済は疲弊している。長崎でも税収は落ち込んでいるのに、さるくに市が相当の資金を投入している。長崎市の厳しい財政事情を考えると、税金を使ってさるくを維持していくことは難しい時代に入る。行政やマスコミは観光客数が増えると成功したと考えがちだが、本当は地元にカネが落ちて潤い、そのカネの一部で自立した観光を作り上げる仕組みが必要。長崎さるくが、最先端のまち歩きを自認するのであれば、この困難だが必要な仕組みを、「住民主体のまち歩きの仕掛けで行政を参加させては?」という発想で、30年後の豊かな将来を築いていってほしい。
加藤・国交省九州運輸局企画観光部長との対談要旨
加藤:先ほどの水木しげるロードの話で、「入込客数」と「地域経済でお金がまわること」の関係性をどのように考えるべきか。
山田:この会場で、水木しげるロード行って土産を買った人はいるか?
妖怪キーホルダーなどを買ったという声はあるが、それらを作っているのは、殆どが境港とは関係のないところで、境港に落ちた金は外に流れているのが現状。せいぜい、百円程度の妖怪パンを地元パン屋が焼いている程度だろう。最も儲かっているのは市営駐車場だが、これは税収になるだけで直接的に商店街に落ちるわけではない。
では、どうすれば地元にカネが落ちるかといえば、手っ取り早いのは境港の特徴である漁業と提携して海鮮丼を作れば少しは金がまわる。こうした工夫をしないと、商店街の人は買わない客が大挙してやってきて、迷惑だと思っても不思議ではない。
加藤:まちあるきで、地元にカネが落ちる仕組みを作っている例はあるか。
山田:ガイドツアーでは、時間とお金を目いっぱい使ってもらうことで、1泊2日よりも2泊3日の方が当然のことながら経済効果は高い。
ツアープログラムでも、ほかほか弁当より地元産のお弁当で、地場産業の価値を認識させる。例えば有田焼の高級茶碗でも店員がその価値を認めて説明すれば、安物よりも有田焼の方を買うようなもので、高くても気合が入っていることを知ってもらえば買ってもらえる。離島の直売所で、海女さんが伊勢海老をどのようにして取ったかを説明すれば買いたいと思うだろう。
ガイドはボランティアガイドではなく、若い人が職業にできることが重要。そうした「価値を知り物語を語れる」ガイドは、マニュアルよりシナリオが大切。もともと、日本以外では、ガイドツアーは高額商品で、ヨーロッパではガイドの年収は平均より高い。もっとも、直ぐに日本でプロのガイドが成立するかと言えば、かなり難しい。まずは、30〜40代の主婦がパート感覚で始め、徐々に生活が成り立つガイドを目指すのが現実的ではないか。スーパーのレジ打ちをするより、面白く自己実現を達成できる。
加藤:切り口変えて、子ども目線で考えたらどうか。教育効果もある。
山田:大人の方にはどんどんお金取ってほしい。ボランティアは子ども達がやると観光客も大喜び。子どもが地域から教わると親が劇的に変わる効果もある。湯布院では保育園児がガイドをしているが、こういう経験すると、大人になっても「うちのふるさとは何もない」なんて言わない。
加藤:地域が目指すべき観光ビジョンとは?
山田:言葉はあいまいになりがちなので、やはり数字で目標を持つ方がいい。例えば人口減で10年間に350億円経済が縮小するので、それを取り戻そうといったたぐい。
また、頭でっかちではなく、実際に活動する人を中心にビジョンを造り、実行することが重要。観光協会などは商工会議所の名士や当て職ばかりで実際には動かない幹部が多いが、弟子屈では実働部隊中心に動いている。部会活動には住民でも子どもでも参加でき、この街をみんなで誇れる街にするにはどうするかを、みんなで議論する。住民参加だから、実行段階でもみんなが応援し、新しく使った商品は売れ、収入と雇用が生まれた。このように、ビジョンを構築できるよう、みんなが集うテーブル(プラットホーム)を作り、地域全体でプロジェクト進めることが重要であろう。
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