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パネルディスカッション要旨

<パネラー>
茶谷幸治氏 長崎さるく博コーディネートプロデューサー
桐野耕一氏 長崎さるく博市民プロデューサー
黒田雄彦氏 NPO長崎の風邪理事長
東川隆太郎氏 NPOかごしま探検の会代表理事
尾関憲一氏 NHK「ブラタモリ」プロデューサー
<コーディネーター>
梅元建治氏 長崎・居留地ネットワーク事務局長

茶谷:さるく博を実施するに際し、「一過性のイベントではなく、長崎という街そのものを見てもらう持続的なまちあるき観光への挑戦」というコンセプトがあり、そこに自分が呼ばれた。「プロが手がけて終わると去っていくより、住んでいる人が自己発見をする」との発想は、自分自身でも驚いた。さるく博が終わって4年たつのにいまだに全国から「さるくのことを話してくれ」と呼ばれる。愛知万博を見ても、残っているのは借金のみという現実がある中で、これは稀有なことである。大阪市からは「さるくの大阪版を」と乞われて「大阪あそ歩」をスタートしたが、好評でいつのまにか大阪市の重点事業になってしまった。今では京都や神戸、堺をとりこんで「関西あそ歩」になって、私鉄のスポンサーがつき始めている。全国的にも、かなりの風圧で「まちあるき」がウケている。
 

桐野:私からみると「さるく博」は、長崎人ののぼせもんのおせっかいな遺伝子が、わが町を自慢したくてイベントになってしまった、といった印象。さるく博が終わっても、現在もガイドとして案内している。街を知れば知るほど興味がつきす、「この街をステージとしてなんかできないかな」と思う。つまり、大人たちが自分が生まれた街で遊んでいる、楽しんでいるという感覚が長続きを生んでいると思う。

黒田:私は東京出身ながら、長崎が大好きになって住んでいる。おととし、江戸の日本橋から長崎まで1000km踏破したほか、いろんな場所を歩いてきた。これが高じ、長崎を活性化したいと思い、NPO「長崎の風」を立上げ、龍馬がらみの「学さるく」を実行している。地域のコミュニティを育む自治会さるくや学童さるくも行い、活動の輪を広げつつある。

東川:私は、2001年からまちあるき手法を生かし、観光やまちづくりを本業とし、全国で活動している。NHKの大河ドラマ「篤姫」が決まったときは「Who are you?」だったが、篤姫のことを周知徹底し、ロケの世話をするなどして鹿児島の知名度を上げたと思っている。さるく博の開催で、長崎はすっかりまちあるきの聖地になっていて、自分でも自由に歩いて楽しんだ。車やバイクでは見落としてきたものを、発見、共有するのが重要だ。私自身、NPO「かごしま探検の会」を立ち上げて活動するほどまちあるきは面白くなった。しかし、まちあるきの思想を地域に広めるのは時間がかかるのが実感。これまで観光に関わってこなかった人をいかに取り込むかがカギだと思う。私は、世界遺産ではなく、自分たちの地域の大切な宝物「世間遺産」を活用していく道筋を提唱している。

桐野:今日の尾関さんの講演で、「街を歩きながら“なんだろう”が歴史を知る糸口になる」という発想は、私たちに様々なヒントをくれた。普通は「歴史を勉強して人に語りたい、知ったかぶりしたい」という欲求に駆られるが、それで本当にいいのだろうか? という問いかけだと思う。きれいな長崎の港を見せて、「きれかでしょう」で十分だったりする。過去の歴史を話すのは「歴史家」、さるくガイドは「こんな街にしよう」と将来を語るのが大事なんじゃないかと思う。

茶谷:それは、まちあるきの本質論だろう。街が持っているいろんな顔や味を、これまで旅はどこまで味わおうとしただろうか? 出来の悪いガイドブックをたどるだけの旅だったのではないか、というのがまちあるきを推進する原点だと思う。従来の長崎観光これでダメになったのであって、長崎の持つ魅力を伝える「誰か」が必要だということに、気付いたのが長崎さるく博につながったと思う。街の人やガイドと合う、声をかけあう、まなざしが通じ合うことが「旅」であり、「街を知る」ということだ。長崎は「さるく」という手法でそれを実現した。しかしどれだけ長崎の例を語っても、他所では未だになかなかできない。最初はどうしても歴史研究から入ることが多く、年号ばかり正確に言えても、聞いている人にとっては面白いものではないことが殆ど。むしろそこに住んでいる人の毎日の暮らし、それを自分たちはどう誇りに思っているかが本題である。大阪あそ歩では、コースの本数をとことん作りまくった。もうこれ以上できないというくらいになると、初めて地元の人との会話が生まれ始めた。そこまでやらないと、なかなか本質に踏み込めない。

尾関:共通しているのは、まちあるきは「自分で観て感じるアナログ感」だと思う。TVやネットやケータイで情報だけが入ってきて、それをあたかも自分で観た気になる時代。しかし、本来身の回りに起きたことを見るのが、地球に生きる生き物の日常だった。TVにも責任があり、自分でできることは「なんだろう?」と思って自分で発見する喜びを提案したつもりだ。NHKのある渋谷も、若者が店を探してまちをぞろぞろ歩いているわけで、よく考えればまちあるきと同じ目線だろう。まちあるきは人間の本質的な欲求で、将来性があると思う。

梅元:まちあるきを通して見えてくるものは「人が本来持っている、他の人たちとつながりたい、他の誰かと関わりたい」という思いがあるのではないか。この原点を忘れずに取組めば、一過性のイベントに終わることなく、根付いていくのだろう。


観光カリスマ 山田桂一郎氏 特別講演要旨


私は、スイスのツェルマットに在住し、エコツアーやグリーンツーリズムを中心に取組んでいるが、日本にもしばしば帰国し、様々な地域のアドバイスをしている。といっても、あまり名前が出ないようにしているが、これは主体は住民であるとの考え方によるもの。最近は金融不況の影響もあって、苦しいという悲鳴ばかりのようだが、私が手伝っている先は例外なく成功しているといっても過言ではない。観光は様々な人が絡んでいるが、トップが「エゴと利害」に冒されてゾンビ的存在になって、硬直的になっていることが多く、それと戦い解きほぐすことが真の観光活性化につながる。このため、自分自身のことを「ゾンビバスター」と位置づけている。

私は「そもそも何のために観光をするのか」を問いかけているが、重要なのは住んでいる人の満足感ではないかと思っている。旅で求められているのは「非日常より異日常」で、住んでよし、訪れてよしの豊かな環境とライフスタイルこそが大切なのではないか。私が住んでいるツェルマットは、住んでいる人が生活の質を上げたいため、街の色や高さを規制しているが、それが観光客にとっても心地良い環境を生み、人気になっている。

さて、長崎さるくに今後求められているものは何か。この会場に来てないような人、観光から一番遠い人を巻き込んで、「地域全体が良し」としていくことが重要。TVでも、鶴瓶などが街の人を主役にする番組に人気がある。これは、かつての長寿旅番組「兼高かおるの世界の旅」で人々のライフスタイルそのものを取り上げたのと共通する。外国では、観光客だけでなく地域に満足してもらう意識がないと失敗するといわれる。「勝ち残る」という言葉をよく聞くが、「誰に勝つのか? 」を問いかける必要がある。つまり「どこかを打ち負かしたところでいいことあるか?」という問いで、ダメな地域・事業者ほど自らの原因を振り返らず、ライバルを作りあげ、苦しい中で足の引っ張り合いして、さらに悪くなっていく。むしろ、大切なのは「勝ち残る」ではなく「価値残る」であり、価値がなければお客様から選ばれない。同じだと思えば安くて近い方に流れる。さらに、その「価値」をどう伝えるかを考えることも重要である。

また、地域が潤う仕組みが必要。鳥取の境港では、水木しげるブームで観光客は3百万人を超え、大成功とたたえられているが、実際の商店街の売上は急速に落ち込んで地域経済は疲弊している。長崎でも税収は落ち込んでいるのに、さるくに市が相当の資金を投入している。長崎市の厳しい財政事情を考えると、税金を使ってさるくを維持していくことは難しい時代に入る。行政やマスコミは観光客数が増えると成功したと考えがちだが、本当は地元にカネが落ちて潤い、そのカネの一部で自立した観光を作り上げる仕組みが必要。長崎さるくが、最先端のまち歩きを自認するのであれば、この困難だが必要な仕組みを、「住民主体のまち歩きの仕掛けで行政を参加させては?」という発想で、30年後の豊かな将来を築いていってほしい。

加藤・国交省九州運輸局企画観光部長との対談要旨

加藤:先ほどの水木しげるロードの話で、「入込客数」と「地域経済でお金がまわること」の関係性をどのように考えるべきか。

山田:この会場で、水木しげるロード行って土産を買った人はいるか? 
妖怪キーホルダーなどを買ったという声はあるが、それらを作っているのは、殆どが境港とは関係のないところで、境港に落ちた金は外に流れているのが現状。せいぜい、百円程度の妖怪パンを地元パン屋が焼いている程度だろう。最も儲かっているのは市営駐車場だが、これは税収になるだけで直接的に商店街に落ちるわけではない。

では、どうすれば地元にカネが落ちるかといえば、手っ取り早いのは境港の特徴である漁業と提携して海鮮丼を作れば少しは金がまわる。こうした工夫をしないと、商店街の人は買わない客が大挙してやってきて、迷惑だと思っても不思議ではない。

加藤:まちあるきで、地元にカネが落ちる仕組みを作っている例はあるか。

山田:ガイドツアーでは、時間とお金を目いっぱい使ってもらうことで、1泊2日よりも2泊3日の方が当然のことながら経済効果は高い。
ツアープログラムでも、ほかほか弁当より地元産のお弁当で、地場産業の価値を認識させる。例えば有田焼の高級茶碗でも店員がその価値を認めて説明すれば、安物よりも有田焼の方を買うようなもので、高くても気合が入っていることを知ってもらえば買ってもらえる。離島の直売所で、海女さんが伊勢海老をどのようにして取ったかを説明すれば買いたいと思うだろう。
ガイドはボランティアガイドではなく、若い人が職業にできることが重要。そうした「価値を知り物語を語れる」ガイドは、マニュアルよりシナリオが大切。もともと、日本以外では、ガイドツアーは高額商品で、ヨーロッパではガイドの年収は平均より高い。もっとも、直ぐに日本でプロのガイドが成立するかと言えば、かなり難しい。まずは、3040代の主婦がパート感覚で始め、徐々に生活が成り立つガイドを目指すのが現実的ではないか。スーパーのレジ打ちをするより、面白く自己実現を達成できる。

加藤:切り口変えて、子ども目線で考えたらどうか。教育効果もある。 

山田:大人の方にはどんどんお金取ってほしい。ボランティアは子ども達がやると観光客も大喜び。子どもが地域から教わると親が劇的に変わる効果もある。湯布院では保育園児がガイドをしているが、こういう経験すると、大人になっても「うちのふるさとは何もない」なんて言わない。

加藤:地域が目指すべき観光ビジョンとは? 

山田:言葉はあいまいになりがちなので、やはり数字で目標を持つ方がいい。例えば人口減で10年間に350億円経済が縮小するので、それを取り戻そうといったたぐい。
また、頭でっかちではなく、実際に活動する人を中心にビジョンを造り、実行することが重要。観光協会などは商工会議所の名士や当て職ばかりで実際には動かない幹部が多いが、弟子屈では実働部隊中心に動いている。部会活動には住民でも子どもでも参加でき、この街をみんなで誇れる街にするにはどうするかを、みんなで議論する。住民参加だから、実行段階でもみんなが応援し、新しく使った商品は売れ、収入と雇用が生まれた。このように、ビジョンを構築できるよう、みんなが集うテーブル(プラットホーム)を作り、地域全体でプロジェクト進めることが重要であろう。

日本まちあるき協会事務局  NPO法人「長崎コンプラドール」
 〒852-8013  長崎市梁川町13-29         Tel&Fax 090-3882ー0870(田中)
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