目次

 

T.序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1〜3

 

U.先行研究

  U―1.修学旅行の現状・・・・・・・・・・・・・・4〜6

  U―2.体験型観光と修学旅行・・・・・・・・・・・7〜8

  U―3.長崎市における修学旅行の現状と対策・・・・9〜10

  U―4.龍踊と龍踊体験・・・・・・・・・・・・・・1112

 

V.研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1314

 

W.結果と考察

  W―1.龍踊体験の流れ・・・・・・・・・・・・・・1516

  W―2.調査結果項目別分析(体験者)・・・・・・・・1740

  W―3.質問項目比較考察・・・・・・・・・・・・・4143

  W―4.学校の取り組みと成果の関係・・・・・・・・4449

  W―5.参考データ(小学生と高校生)・・・・・・・・5055

 

X.総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5658

 

Y.今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59

 

Z.参考・引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

 

     資料

T.序論

日本における修学旅行は,1882年に栃木県第一中学校の生徒たちが先生に引率され,東京で開かれた「第二回勧業博覧会」を見学したことが集団旅行のはじまりといわれており,「修学旅行」の言葉は,1887年に発行された『大日本教育雑誌54号』に長野師範学校が実施した集団旅行が搭載された際に初めて使われた。その後,昭和時代に高等小学校の宿泊を伴う修学旅行が許可されると,1943年に戦時悪化によって禁止されるまで,伊勢神宮や厳島神社等の国家神道教育に通じる神社・仏閣などへの参拝を目的とする修学旅行が行われた。戦後は,1946年に大阪市立東高等女学校が阿蘇への修学旅行を再開したのが始まりとされ,その後本格的に再開され始めた。

現在,修学旅行は学校行事に位置付けられる特別活動である。学校行事の内容については,学習指導要領に,「全校又は学年を単位として,学校生活に秩序と変化を与え,集団への所属感を深め,学校生活の充実と発展に資する体験的な活動を行うこと。」とあり,学校行事の特質としては以下の4点が示されている。

(1)                多彩な内容をもつ総合的,体験的な活動

(2)                学校生活をより豊かな充実したものにする活動

(3)                より大きな集団や幅広い人間関係を通して学ぶ活動

(4)                学校行事への参加・協力を通して自主的・実践的な活動

また,修学旅行は学校行事の中の旅行・集団宿泊的行事として分類される。その内容としては

ア 平素とは異なる生活環境の中にあって,教師と生徒及び生徒相互の人間関係な触れ合いや信頼関係を経験し,人間としての生き方について自覚を深めるとともに,生涯の楽しい思い出をつくることができる活動

イ 我が国の文化・経済・産業・政治などの重要地を直接見聞したり,自然体験で大自然の美しさに接したりすることによって,各教科等における学習を拡充することができ,広い知見と豊かな情操を育成できる活動

ウ 楽しく豊かな集団活動を通して,健康や安全,集団生活のきまりや社会生活上のルール,公衆道徳などについて望ましい体験を得る活動

とされている。これらの内容に従い,学習指導要領に記された「望ましい集団生活を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り,集団や社会の一員としてよりよい生活を築こうとする自主性,実践的な態度を育てるとともに,人間としての生き方についての自覚を深め,自己を生かす能力を養う」という特別活動の目標を達成することに,修学旅行の意義がある。

 しかし,従来,修学旅行はどこか一過性の「行事」として位置づけられることが多かった。だが,学校教育の見直しが進む今日,修学旅行を積極的に学習の機会とする動きが高まっている。故に近年の修学旅行は,行き先や体験の幅が広がり,その形態が多様化してきた。しかしながら,そのような中でも,修学旅行における学習価値は一環していると言えよう。集団活動能力や自習性,実践的な態度の育成や,個性の伸長など,平素とは異なる生活環境で子どもたちが学ぶことは多いと期待される。だが,単に旅行にでかけるだけでは,これらのような学習価値は構築され難い。そこで大事になってくるのが,学びの価値を与えていく意図的な学習計画である。つまり,その体験・学習をすることで,どのような学習効果が望めるのかを把握しておく必要がある。

 さらに,一方では,まちおこし・地域おこしを通してまちの活性化に取り組もうという気運が高まっている。その取り組みは修学旅行にも目を向けられ,地域特有の文化や産業を体験・見学したり,地域の人々との交流の機会を与える修学旅行の在り方が注目されているのである。その取り組みの中でも近年修学旅行市場において大きな地位を築こうとしているのが,体験型観光である。体験型観光とは,地域の「ほんもの」に参加すること,あるいは「ほんもの」の場面(形,姿,道具,材料,場所,時)や手法が違う場合であっても,そのことが伝わり,「ほんもの」の姿を理解できるような活動のことである。長野県の「感動体験南信州」や和歌山県の「和歌山県ほんまもん体験」,新潟県の「越後田舎体験」,北海道の「北海道マリンツーリズム」などがこれらの体験型観光の先進である。長崎県においても長崎県オリジナルの体験型観光のプロジェクトが企画されており,新しい観光スタイルとして取り入れることで地域の活性化を目指している。

 このように,修学旅行の体験をする側と,体験を受け入れる側の2つのねらいが合致してはじめてその成果が期待できるものと考えられる。

そこで本研究では,修学旅行,体験型観光,長崎市の体験学習の現状について調べ,更に長崎の伝統的な文化の1つである「龍踊」を修学旅行生が体験するという活動に注目して,その体験によって子どもたちにどのような学習効果が与えられたのかを調査・研究するものとする。

 

 

 

 

 

U.先行研究

U−1.修学旅行の現状

 先に示したように,修学旅行の最大の意義は特別活動の目標を達成することであり,すなわち修学旅行は学校教育における学習の一環にほかならない。それでは,学校側は修学旅行の目的をどのように捉えているのだろうか。

図1−1学校側が考える修学旅行の目的            

出典:Benesse教育開発センター『VIEW21』200312月号

特別活動の学習指導要領における,学校行事の中の旅行・集団宿泊的行事の内容別に項目を分けて考察する。

 「ア 平素とは異なる生活環境の中にあって,教師と生徒及び生徒相互の人間関係な触れ合いや信頼関係を経験し,人間としての生き方について自覚を深めるとともに,生涯の楽しい思い出をつくることができる活動」には,「人間関係(18)」,「思い出(16)」が挙げられ,全体の34%がこの項目内容に当てはまる回答である。

「イ 我が国の文化・経済・産業・政治などの重要地を直接見聞したり,自然体験で大自然の美しさに接したりすることによって,各教科等における学習を拡充することができ,広い知見と豊かな情操を育成できる活動」には,「見学・学習(10)」,「地域産業(12)」,「国際理解(3)」,「自然の偉大さ(13)」が挙げられ,全体の38%がこの項目内容に当てはまる回答である。

「ウ 楽しく豊かな集団活動を通して,健康や安全,集団生活のきまりや社会生活上のルール,公衆道徳などについて望ましい体験を得る活動」には「生活体験(4)」,「スポーツ学習(6)」「集団生活(18)」が挙げられ,全体の28%がこの項目内容に当てはまる。

以上のように,学校側の修学旅行においての最大目的は,学習指導要領に示される,旅行・集団宿泊的行事の内容別項目の3項目全体に分散されており,各学校がそれぞれの目的を持って修学旅行を企画していることが予想される。

しかしながら,その中でも大きな割合をしめているのは,「集団生活(18)」「人間関係(18)」「思い出(16)」である。この3項目で半分以上の割合を占める。このことから,学校側は修学旅行において,子どもたちの集団生活の訓練や,人間関係の拡大や修繕,よりよい学校生活の思い出づくりを期待している学校が多いようである。

では,主体である子どもは修学旅行の目的をどのように捉えているのか。

図1−2子どもが考える修学旅行の目的・意義         

出典:Benesse教育開発センター『VIEW21』200312月号

学校側が考える「集団生活」,「人間関係」,「思い出」の項目にあたるA〜Cの三項目については「そうは思わない」の回答が10%を切っており,学校側の考える修学旅行においての多数派の目的と,子どもの修学旅行においての多数派の目的は完全に一致していると言えよう。

しかしながら,「@学習の一形態」の項目をみてみると,「そうは思わない」「どちらとも言えない」と回答した子どもは合わせて38%にも及ぶ。このことから,子どもたちにとって修学旅行が学習指導要領に記された学習の一形態であるという認識が低いことが明確である。

以上のように,修学旅行は学習の機会としての教育活動の一形態であると捉えながらも,実際には一過性の行事として位置付けられていることが多いようだ。教育活動の見直しが進む現在,修学旅行も見直し・強化が進められようとしている

 

U−2.体験型観光と修学旅行

 体験型観光が注目されだした現在,修学旅行の内容までもがこれまでの観光地見学型から自然体験や環境学習,そして社会体験へとシフトすることへの動きが始まっている。

 何故ここまで体験型の旅が注目されているのか。その1つの大きな原因として挙げられるのが,情報化社会の発達であろう。テレビやパソコン等の普及で,情報化社会は容易に様々な情報を人々に与えることができる。人々は実際に体験してなくても情報を得られるのである。そのことで,体験したつもり知ったつもりになっているのではないか。そのような懸念が,リアリティを大切にした体験型を後押している。

 また,修学旅行における体験型観光には,総合的な学習の時間の関わりが大きい。総合的な学習の時間は,生きる力を育む教育という目標の実現のために設けられた時間であり,その時間の中で体験学習を推進することとなった。体験教育企画代表藤澤は200411月に開催された「第2回全国ほんもの体験フォーラムinわかやま」において「生きる力を育む教育は机上学問のみならず,人は人により,自然は自然により学ぶ体験学習の機会が,人を変え,人を高めることとなると確信している。」と述べている。

 更に,体験型観光が地域にもたらす影響も,近年の体験型観光の広がりにつながっている。他ではまねの出来ない体験をプログラムすることで観光客数を増やし,リピーターも増やすことが期待されている。

体験型観光は地域の活性化への期待も大きいのである。

 このように,たくさんの人々が様々な面で体験型観光を必要としている。現在,特に学校や地域にとって体験型観光は大変魅力的なものであり,修学旅行においての体験型観光が大きく注目され始めた。

 しかし,修学旅行において体験学習を実施している学校はまだ少ない。

図2自主見学と体験学習の実施について      

出典:『修学旅行のすべて2005(平成十七年)Vol.24

上に示すように,自主見学を実施した学校の割合に比べて,体験学習を実施した学校の割合は低い。しかしながら,体験学習を実施した学校の割合は年々増加傾向にあるそうだ。今後の修学旅行における体験学習の大いなる発展を期待したい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

U−3.長崎市における修学旅行の現状と対策

○長崎市修学旅行生年次入り込み人数

平成9年

612,300

対前年比97.5

平成10

577,500

    94.3

平成11

530,000

    91.8

平成12

481,000

    90.8

平成13

469,900

    97.7

平成14

377,000

    80.2

平成15

324,300

    86.0

出典:『修学旅行のすべて2005(平成十七年)Vol.24

『修学旅行のすべて2005(平成十七年)Vol.24』によると,平成15年に長崎市を訪れた修学旅行生は,324,300人であった。これは前年に比べると,52,700人の減少である。平成9年からの7年間を見ても,長崎市に訪れる修学旅行生の人数は減少傾向にある。

 そこで,長崎市では,修学旅行の誘致対策として「長崎広域体験学習協議会」を設置し,長崎の歴史や伝統を活かした平和,食,伝統・文化などの様々なジャンルの体験活動を行っている。

 長崎市が現在提供しているプログラムは全部で74件あり,その主な内容は,炭鉱の歴史を学習するものとして,端島(軍艦島)や池島を見学・検証するコースがある。環境学習としては,長崎ペンギン水族館でのバックヤードツアーや,黒崎永田湿地での生物観察,農林漁業の学習には,びわ収穫体験や,定置網漁等,海での体験としてはカヌー体験や磯釣り,造船業の学習として三菱重工業()長崎造船所の見学するコースが企画されている。更には,田舎体験として,手作りパンづくりや,炭焼き体験等,味覚体験においては,ちゃんぽん作りや,カステラ作り,かまぼこ作り等,また,伝統・工芸体験としては,ステンドグラスキーホルダー作り,ハタ作り等,伝統文化体験では,ペーロン体験や太極拳体験,胡弓体験等がある。その他にも平和学習や機械工学体験,国際交流体験,社会福祉体験においても,いくつかのプログラムが用意されている。

 このように,修学旅行生の減少傾向への対策として,長崎の地域ならではの多彩な体験プログラムを企画し,まちの活性化を図っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

U―4.龍踊と龍踊体験

 龍踊体験は,長崎市観光宣伝課による『長崎体験学習』パンフレットに登載されており,伝統文化のジャンルにおける体験学習の1つである。

 龍踊とは,元は中国での五穀豊穣を祈る雨乞いの神事であり,江戸時代には長崎に在住していた中国人が正月に催す行事として行っていた。その後,唐人屋敷に隣接する本籠町(現在の籠町)の住民が長崎くんちに奉納する踊りとして,唐人屋敷の中国人に習ったものが,現在の龍踊の始まりとされている。その後も長崎くんちにおいて龍踊は奉納され続け,現在でも長崎くんちの中でも最もポピュラーな催し物として,長崎の人々や観光客から愛されている。

 その長崎の伝統的な文化の1つである龍踊を,修学旅行生が練習・実演し,最後には発表会を開催するというおよそ3時間の活動が「龍踊体験」であり,この龍踊体験を提供しているのは,「ぜっと屋」代表河野謙氏である。体験できる人数は7〜120人までで,小学校,中学校,高等学校,養護学校と対象は幅が広い。また,修学旅行だけではなく,文化祭や留学生,子ども会のイベントとしても提供している。

 河野は自身のホームページにおいて『龍衆には一人一役,同じように見えても,違う動き・役割があります。また,楽隊にも各楽器の調和をはかり,龍踊りの動きに合わせて演奏を切替え,龍踊を躍らせる役割を担っています。郷土芸能の体験と捉えるだけでなく,仲間の大切さを感じ取ってもらいたいものです。また,グループレッスンでは,発表会を設定することで,体験の目標が具体的になり龍踊に積極的に関わってもらいます。発表会の成功に向けて,休み無く指導を行います。クタクタになるほどの練習後の発表会での声援・歓声・拍手を頂くと,笑顔と大成功の思いと共に大きな達成感が得られます。』と,龍踊体験での効果を述べている。

 また,同ホームページにおいて長崎大学教育学部教育実践総合センター教授の小原は『龍踊体験学習は,見聞きして知る学習ではなく日本の文化のひとつである長崎の文化をからだでまるごと体験する「感性の学習」である。また,グループで短時間でひとつのことを成し遂げる「異空間での集中力の学習」である。そして祭り文化をつくり上げている達人たちの素晴らしさを知る「尊敬の学習」でもある。龍踊に取り組んだ児童生徒たちの感想を分析すると,一様に全員で達成した喜び,異文化を肌で理解できた感動にあふれている。その意味で単に「思い出作り」ではなくひとり一人の心に本物のリアリティを芽生えさせる「心とからだの学習」であるといえる。』と龍踊体験の学習としての位置づけと効果を述べている。

 このように,龍踊体験は様々な学習効果が期待されているものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

V.研究方法

V−1.対象者(学校)

 修学旅行において龍踊体験に参加した

a.A中学校(26)

b.F中学校(42)

c.H中学校(78)

d.K中学校(80)

e.Y中学校(47)

の計273名の体験者と各学校の引率者を対象の中心とした。また,同じく修学旅行において龍踊体験に参加したG小学校(21)とT高等学校(35)も参考対象とした。

 

V−2.調査期間

5月〜11月の龍踊体験実施日

 

V−3.調査方法

()体験者への影響(体験者へのアンケート)

 修学旅行終了後,各学校にアンケートを送付した。アンケート質問項目は全11問で,回答方法は「大変そう思う」「そう思う」「あまり思わない」「まったく思わない」からの4択である。それに加え,記述による自由回答として感想を書く欄を設けた。以下に,11問の質問項目を示す。

1)         龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?〔意欲,興味・関心〕

2)         練習はきついと思いましたか?〔厳しさ〕

3)         動きや演奏は難しかったですか?〔困難さ〕

4)         龍踊を行って気持ちは盛り上がりましたか?〔高揚感〕

5)         自分の役割は十分に果たせましたか?〔役割認知と責任〕

6)         すばらしい出来ばえでしたか?〔満足感・達成感〕

7)         わざわざ長崎でしなくてもよかったと思いますか?〔長崎での意義〕

8)         龍踊体験をきっかけに友達との仲がもっとよくなったと思いますか?〔仲間づくりの効果〕

9)         友達と協力することを楽しく思いましたか?〔協調性〕

10 修学旅行の中で龍踊が一番印象に残っていますか?〔特異性,インパクト〕

11 もう一度やってみたいですか?〔継続性〕

 

()学校の取り組み(引率者へのアンケート)

 修学旅行終了後,子どもへのアンケートに引率者へのアンケートも同封し,学校側の取り組みについて調査することで,学校の取り組みと成果の関係について考察する。

 その内容は龍踊体験を知った方法,龍踊体験を取り上げた理由,児童生徒の取り組みの様子,児童生徒の変容の有無,指導方法が適切か否か,今後龍踊体験を実施する可能性について選択式で,また龍踊体験の企画意図,もしくは求めた効果や成果を記述式でとりあげた。なお,児童の変容の有無については,変化があった場合のみ,具体的な内容を記述してもらった。

 

 

 

 

W.結果と考察

W−1.龍踊体験の内容

@龍踊体験の流れ(例:K中学校)

14:0014:15  挨拶,説明,編成

14:1515:10  龍踊体験(基礎,グループ別)

15:1015:20  休憩

15:2016:20  龍踊体験(応用,全員)

16:2016:45  発表会場への移動

17:0017:15  発表会

17:1518:00  収納,挨拶,解散

 まずは簡単な挨拶があり,その後体験の流れを説明する。その際は予定表を準備しておき,説明後も壁に貼っておく。そして,龍踊のおおまかな動きを図を用いて説明する。あらかじめ決めてもらっていたグループの編成と役割を確認し,グループに分かれる。

 グループ別に分かれて基礎を練習する。その際,1グループにつき1人以上の指導者が就き指導するが,ローテーションで各グループが交代に河野氏の指導・チェックを受ける。

 休憩を挟み,練習用の龍から本番用の龍に持ち替えて,発表時の流れを確認しながら練習する。この際,楽隊グループがある学校は龍隊の動きに合わせて練習を行う。

 本番用の衣装が配布され,体験者はそれを身に着けて発表会場に移動する。

 15分程度の発表会が行われる。まずは,体験者の代表が挨拶をして,演舞が始まる。観客は他の体験に参加していた同級生に限らず,通行人や他の観光客もが足を止めて発表に注目する。「モッテコーイ」という長崎のアンコールの掛け声が掛かると,再び演舞を行う。アンコールに応えたあとは,体験者の代表が終わりの挨拶を行う。

 発表終了後,河野氏からの挨拶と,龍踊体験に参加した証としての認定証が送られ,一人ひとりに手渡される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

W−2.調査結果項目別分析(体験者)

 以下では,生徒に配布したアンケートの項目11問を,アンケート結果(体験者用と学校用),観察記録を用いて1問ごとに検証する。

図3:()龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?

 この問いは,生徒たちの龍踊体験学習に対する事前の意欲,興味・関心の有無を問うものである。

 5校合計の結果をみると,「大変そう思う」「そう思う」の回答は合計して78%であり,「あまり思わない」「まったく思わない」との回答の合計22%を大きく上回っている。全体的にみると,多くの生徒が龍踊を行うことに何らかの興味・関心,そして意欲を持っていたことがわかる。

 しかし,5校の中でY中学校だけが,「大変そう思う」と「そう思う」との合計が「あまり思わない」と「まったく思わない」との合計を下回っている。つまり,Y中学校の龍踊体験者の過半数が龍踊体験学習に対しての意欲や興味・関心を持つことなく体験に参加していたのである。これに対し,K中学校では「大変そう思う」と「そう思う」の合計が90%を超えている。K中学校の龍踊体験者のほとんどが,龍踊をすることを楽しみにしていたことがわかり,龍踊体験学習に対する意欲や興味・関心が高かったのはこの結果から明らかである。

 この2校の結果が大きく異なったことの理由として考えられることは,龍踊体験学習への学校全体としての思い入れの差であろう。今回,旅行業者からの紹介で初めてこの龍踊体験学習に参加することになったY中学校に対し,K中学校ではこの龍踊体験学習を4年間継続しており,更には修学旅行以外の学校行事においても龍踊の演舞を行うことがあるという。旅行業者からの紹介であれば,龍踊体験学習への知識はほとんどなかったと予想されるだけに,この体験への参加にはどこか受身的な態度があったのかもしれない。これだけの龍踊体験学習に対する思い入れの違いがこのような結果の相違をつくりだしたと考える。

 

 

図4:()練習はきついと思いましたか?

 

 

 

 この問いは,体験の厳しさを問うものである。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」との合計が47%,「あまり思わない」「まったく思わない」の合計が53%であった。厳しさを感じた者と感じなかった者は約半数ずつであったようだ。

 また,体験者は龍を操る龍隊と楽器を演奏する楽隊とのグループがある。活動する内容が違うので,それぞれのグループの体験者がどのように感じたのかを龍隊と楽隊(図4−7)において考慮しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○項目()における龍隊と楽隊の比較(5校合計)

図4−7

 

 体験の厳しさを問う質問に対して龍隊として体験に参加した子どもたちの58%が厳しさを感じたようである。それに対して楽隊として参加した子どもたちの中で厳しさを感じた子どもは4分の1に満たない。体力的な厳しさを考えると,動きが激しい龍隊の方がやはりきついように思われる。ただ,体力や精神力にも個人差があるので,龍隊のほうが必ずしも厳しいとは言い切れないところである。しかしながら,学校側が事前にグループを決める際の参考には成り得ると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

図5:()動きや演奏は難しかったですか?

 

 

 

 この問いは,体験の困難さを問うものである。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計は72%であり,「あまり思わない」と「まったく思わない」の合計は28%であった。この結果から,多くの生徒が龍踊体験への困難さを感じたことがわかる。

 しかし,この問いにおいても龍隊と楽隊とを区別して,龍隊と楽隊の比較(図5−7)において考察したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○項目()における龍隊と楽隊の比較

図5−7

 龍隊の体験者が技術的な困難さを感じた割合は75%,楽隊の体験者が困難さを感じた割合は66%であり,それほど大きな差はみられない。しかし,「大変そう思う」と回答した体験者は龍隊が43%,楽隊が24%と多少の差がみられる。また,「まったく思わない」と回答した割合も龍隊が5%,楽隊が17%と差が出た。

ただ,能力にも個人差があるので,どちらを困難に感じるかは個々によるものである。よって,龍隊と楽隊における効果の違いは分析し難いが,学校側が事前にグループを決める際の参考程度には成り得ると考える。

 

 

 

 

 

 

図6:()龍踊を行って気持ちは盛り上がりましたか?

 

 

 

 この問いは,体験による高揚感を問うものである。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計は92%であった。また「あまり思わない」と「まったく思わない」の合計は8%であり,体験者全体の1割を下回った。ほとんどの体験者が龍踊体験を通して,気持ちの盛り上がり・高揚感を感じており,何らかの感動があったものと考えられる。

 この問いにおいて注目すべきは,A中学校である。「たいへんそう思う」が77%,「そう思う」が23%と体験者全員が龍踊体験学習において高揚感を感じたようだ。一方で,Y中学校の「あまり思わない」と「まったく思わない」の合計割合は19%であり,他の全ての学校の10%を切る結果と差が出た。しかし,「まったく思わない」と回答した生徒の割合はY中学校と他4校との間に大きな差はみられなかったため,龍踊体験において気持ちの盛り上がりを十分には感じることができなかった生徒が多いことがわかる。しかしながら,観察による調査ではA中学校とY中学校の取り組みに大きな違いはみられなかった。この違いは生徒の期待の大きさの裏返しとも考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図7:()自分の役割は十分に果たせましたか?

 

 

 

 この問いは自分の役割を体験者が理解し,その役割に責任をもって行動することができたか否かを問うものである。指導者も,「体験者一人ひとりが異なる役割を持っており,その中のどの1つが欠けても龍踊は完成しない。」という事を体験者に伝えている。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計は90%であり,「あまり思わない」と「まったく思わない」の合計は10%であった。この問いでは,どの中学校でも「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した体験者が学校全体の1割程度いた。自由記述での感想の中にも,「難しかった」「少し失敗した」「緊張した」等の意見がみられ,この体験が必ずしも成功を与える体験ではないことがわかる。しかしながら,体験をするうえで,失敗というものは必ずしもマイナスのものではない。失敗の可能性があるからこそ,役割と責任を感じる事が大変重要になる。約1割の「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した体験者ではあっても,失敗を感じる事で役割やその責任の大切さを感じ取った者が多くいたのではないかと推測する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図8:すばらしい出来ばえでしたか?

 

 

 

この問いは体験者の満足感や達成感を問うものである。

5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計は90%,「あまり思わない」「まったく思わない」の合計は10%であった。()と同じくほとんどの体験者が満足感・達成感を感じる中で,1割の体験者が満足感や達成感を感じ得ることができなかったようだ。しかし,この問いから得られるものは完成度による満足感・達成感が中心となる。つまりは,「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した体験者は本番の演技に納得がいかなかった者であろう。この事は自由記述にみられた「少し失敗した」や「難しかった」というコメントからも推察できる。

学校別にみたときに注目すべきはF中学校である。「まったく思わない」の回答者は0%であったが,「あまり思わない」と回答した者は26%であった。他のいずれの学校も「あまり思わない」と「まったく思わない」の回答者割合の合計が10%を切っていることに対し,26%,つまりはF中学校の体験者の約4分の1の体験者が,本番の演技に満足感や達成感を感じることができなかったということであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図9:わざわざ長崎でしなくてもよかったと思いますか?

 

 

 

 この問いは長崎での意義を問うものであり,つまりは,地域独自の文化をその地で体験することへの意義を問うものである。龍踊は長崎の伝統文化の1つであるが,長崎以外の場所で出来ないというわけではない。現に,文化際公演のために他県の学校へ出向いて指導することもあるようだ。そのような中で,修学旅行という短い時間の中に,長崎体験学習の中では所要時間の長い龍踊体験学習というプログラムを組み込む意義や価値を体験者は感じているのだろうか。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計は16%,「あまり思わない」と「まったく思わない」の合計は83%であった。体験者は龍踊を長崎でする事,つまり,地域の伝統文化をその地で体験することの意義を感じているようである。よって,長崎独自の体験プログラムを有する長崎を修学旅行の対象地とすることの意味は十分にありそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10()龍踊体験をきっかけに友だちとの仲がもっと良くなったと思いますか?

 

 

 この問いは体験を通しての仲間作りの効果を問うものである。同じ目標をもって体験を共にする中で友だちとの仲が深まったり,普段はあまり接することのない友だちと接する機会となりえたのであろうか。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計が65%,「あまり思わない」「まったく思わない」との回答者割合の合計が35%であった。学校別にみても,半数以上の体験者が何らかの仲間作りの場としての効果を感じたようだ。自由記述においても「あまりしゃべれない人ともしゃべれた」や「友だち関係がよくなった」というコメントがあり,この体験が仲間づくりの場となった事がわかる。

この結果から,龍踊体験が仲間作りの効果をもっていると考えられるが,その効果は誰もが得られるものではないようである。全体では35%,多い学校では50%の体験者がその効果を得られなかったようだ。ちょっとした事をきっかけに仲が深まることももちろんあるが,やはり短時間の間に友だちとの仲が急に発展することは少々難しいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11:友だちと協力することを楽しく思いましたか?

 

 

 

 この問いは龍踊体験が協調性を高める効果があるのかどうかを調査するものである。「全員で協力しなければ龍踊は完成できない。」というような趣旨の言葉かけは指導者がおこなっており,また実際に体験してその必要性を実感したであろう。しかし,その場だけでの思いになってしまわないためにも,協力することに何らかの喜びや楽しさを覚えることで,今後の生活に活かしてこそ,協調性を高める効果があったといえる。

 5校合計をみると,「大変そう思う」「そう思う」の合計は88%,「あまり思わない」「まったく思わない」の合計が12%であった。この結果から,多くの体験者が協力することに喜びを感じたことがわかる。その経験から,今後の生活の中でも協力することへの意欲が増加されると予想され,協調性を高める効果があったと言えるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12:修学旅行の中で龍踊が一番印象に残っていますか?

 

 

 

この問いは龍踊体験学習が,普段体験することのない特異性を持ったものであるかを調査するための質問である。特異性の大きいもの程,強く印象に残るだろう。

 5項合計をみると,「大変そう思う」「そう思う」の合計は75%で,「あまり思わない」「まったく思わない」の合計は25%であった。

 学校別にみると,「大変そう思う」「そう思う」の合計と「あまり思わない」「まったく思わない」の合計は,A中学校が前者が100%で後者が0%であり,F中学校は前者が55%で後者が46%,H中学校は前者が76%で後者が24%,K中学校は前者が88%で後者が15%,Y中学校は前者が58%で後者が42%という結果であり,学校ごとにやや異なるものとなった。各学校による修学旅行内での他の企画がどのようなものであったのかまでは調査に至らなかったが,いずれの学校でも体験者の半分以上がこの龍踊体験が1番印象に残っているようであるので,強い印象を与えることができる特異性は十分にある体験であると言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13(11)もう一度やってみたいですか?

 

 

 

この質問は,本体験への継続性を調査するものである。もちろん,今回体験した生徒たちが修学旅行で再び龍踊体験することはできないであろう。しかし,修学旅行以外での体験としても今後展開を広げていく可能性もあるし,実際に再度体験する機会はないとしても,龍踊への興味を深めたことで,長崎への旅行のきっかけとなるかもしれない。また,今回体験した生徒の「またやりたい。」という思いが強ければ強いほど,今後の修学旅行でも実施される可能性が大きいはずである。

 5校合計をみると,「大変そう思う」と「そう思う」の合計は81%で,「あまり思わない」「まったく思わない」の合計は19%であった。この結果から,修学旅行で龍踊体験を実施する意義は十分に認められ,教育的な効果は体験不足の現代の子どもたちに対してますます大きいと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

W−3.質問項目比較考察

 以下では,アンケート質問項目11個の中で複数個の質問を比較して考察する。その際用いるデータは5校合計(273名分)とする。

()14:「龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?」→「龍踊を行って気持ちは盛り上がりましたか?」

 「龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?」の質問に対して「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した体験者は22%であった。しかしながら,「龍踊を行って気持ちは盛り上がりましたか?」という質問での「あまり思わない」「まったく思わない」の回答者割合は8%であった。つまり,体験前には龍踊への興味関心を持っていなかった体験者でも,実際に体験をすると龍踊体験での気持ちの盛り上がりを感じることができたということがわかる。

 

 

 

 

 

 

()15:「龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?」→「またやってみたいですか?」

 「龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?」の質問に対して「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した体験者は22%であった。それに対し,「またやってみたいですか?」という質問では「あまり思わない」「まったく思わない」と回答した体験者は19%と,少しではあるが減少した。楽しみにしていなかった体験者の中にも,もう1度やってみたいと思えるくらいの変化があった物がいたということである。逆を言えば,龍踊体験は事前から楽しみにしていた体験者の期待を満たすことができる体験であることがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

()16:「動きや演奏は難しかったですか?」→「すばらしい出来ばえでしたか?」

「動きや演奏は難しかったですか?」という問いに対して38%の人が「大変そう思う」34%の人が「そう思う」と回答した。それに対して「すばらしい出来ばえでしたか?」の質問には「まったく思わない」が2%「あまり思わない」が8%の回答であった。体験における技術的な難しさは多くの人が感じていたが,最終的にはすばらしい出来であったと満足できた体験者が大変多くいたことがわかる。体験は簡単すぎても印象に残りにくいし,難しすぎると満足感や達成感は得られない。「難しいながらもよくできた」と思える程度の体験の難易度が適度であり,龍踊体験はその事を満たす体験であると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

W−4.学校の取り組みと成果の関係

アンケート結果一覧

項目

A中学校

F中学校

H中学校

K中学校

Y中学校

龍踊体験を知った方法

ニュース

旅行業者

FAX

継続

旅行業者

龍踊体験を取り上げた理由

・教育的価値がある。

・長崎らしい企画である。

・教育的価値がある。

・長崎らしい企画である。

・教育的価値がある。

・見学とは違う体験である。

・指導体制が整っている。

・長崎らしい企画である。

・教育的価値がある。

・長崎らしい企画である。

龍踊体験の企画意図もしくは求められた効果や成果

達成感を味あわせられる。また,教師も共に参加し,同じ目線で学べる。

様々な体験をさせたかった。

伝統芸能における異文化交流ができる。学年全体での達成感。思い出づくり。

 

長崎の人とのふれあいがもてる。長崎の文化を知ることができる。

生徒の取り組み

・意欲的であった。

・満足していた。

・意欲的であった。

・満足していた。

・意欲的であった。

・満足していた。

・意欲的であった。

・満足していた。

・意欲的であった。

・満足していた。

生徒の変容

・変化があった。

他の体験の生徒から羨ましがられ誇らしげだった。充実感が生活態度からみられる。

・明確ではない。

・変化があった。

協力と個性の大切さがわかり,合唱コンクールに向け,各クラスまとまりだした。学習発表会での再演を希望している。

・変化があった。

休みがの生徒の登校日数が増えてきた。

・変化があった。

学年のまとまりが増した。クラスの枠を超えたふれあいがうまれた。

今後,龍踊体験学習を実施する可能性

・その他。

年間行事がいっぱいで,この学年では行えない。

・可能性は低い。

学年ごとに決定するので。

・実施してもよい。

・可能性は高い。

・実施してもよい。

学年によるのでわからないが。


 @龍踊体験を知った方法について

 龍踊体験を知った方法を問うことで,その結果と龍踊り体験への学校側の意欲との関係がみえる。

K中学校は前にも記したように,今回で4度目の龍踊体験への参加であった。継続し続けるK中学校の龍踊体験への期待度は大きく,学校側も事前打ち合わせから体験時まで大変意欲的であった。その一方,今回初参加となる4校のうち,F中学校とY中学校は旅行業者からの紹介で龍踊体験を知った。どちらの旅行業者の担当者もこれまでに何度か他の学校で龍踊体験を紹介しているようで,今回の2校もこれらの旅行業者からの勧めがあっての決定であったようだ。つまり,受動的な知り方での参加の決定をしたと言える。その後,両校とも直接河野氏と事前連絡・打ち合わせをするものの,詳しい内容をよく知らないためにどこか受身的な態度がみられたようだ。また,H中学校は河野氏が学校に直接FAXでコーマーシャルしたものに興味を持ち,河野氏に連絡をしたようである。受動的知ったことになるが,そこから学校側が龍踊り体験に興味を持って積極的に参加決定したことは確実である。A中学校では,ニュースで流された他校の修学旅行生の龍踊体験の様子を見て,直接河野氏に連絡を取ってきた。これも同様に,知ったことは受動的であってもその後の積極的な態度がみられる。その分,龍踊体験に対する意欲や期待は大きかったのではないだろうか。

A龍踊体験を取り上げた理由について

 この問いでは,龍踊体験に参加決定する要素,つまり龍踊体験に感じる魅力を「教育的価値がある」「指導体制が整っている」「長崎らしい企画である」「見学とは違う体験である」「生徒を把握しやすい」「珍しい体験ができる」「その他」の中から2つまで選択してもらった。

 5校中4校が選択しているのは「教育的価値がある」「長崎らしい企画である」ということであった。龍踊体験で得られるであろう教育的価値は学校によって捉え方が異なると思われるので,Bでの質問によって考えたい。「長崎らしい企画である」という回答が多かったことは,やはり修学旅行が訪れる土地での特有の学習を大きな柱としているからであり,そのことからも修学旅行において地域独自の体験型観光が広がる可能性が大きいことが推察される。

B龍踊体験の企画意図,もしくは求められた効果や成果について

修学旅行が学習指導要領に示された学習の一環である以上,修学旅行におけるすべての活動について,学習のねらいがなければならない。それぞれの学校はどのようなねらいをもって,この龍踊体験に参加したのであろうか。

まず,A校では「達成感」を重視したようである。体験者用アンケート「4)すばらしい出来ばえでしたか?」という問いにより,体験した26名のうち,24名が達成感を感じたという結果であった。また,「教師も共に学べる」というねらいもあったようだ。序論においても記すように,学習指導要領によると修学旅行は「教師と生徒及び生徒相互の人間関係な触れ合いや信頼関係を経験し,人間としての自覚を深める」ものでなければならない。観察による調査では,A中学校の教師が1番積極的に体験に参加しており,生徒と共に活動に励んでいたようだ(写真)。以上のようにA中学校が求めた効果や成果は満たされたと考える。

次にF中学校であるが,「多様な体験」を重視したようである。龍踊体験を取り上げた理由でも「長崎らしい企画である」を選択したように,普段はできない特異性のある体験をさせたかったのであろう。体験者アンケート「10)修学旅行の中で龍踊が一番印象に残っていますか?」という体験の特異性を問う質問によると,42名中23名のものが特異性を感じたようだが,19名の者にはその効果はみられなかった。多様な体験を重視しているだけに,修学旅行での他の企画も多様なものであったと考えられ,龍踊体験はF中学校にとってはあくまでも多様な企画の中の1つであったのかもしれない。

H中学校は「達成感」「思い出づくり」「異文化交流」を重視したようである。体験者用アンケート「4)すばらしい出来ばえでしたか?」という問いにより,体験した78名のうち,70名が達成感を感じたという結果であった。また同アンケート「10)修学旅行の中で龍踊が一番印象に残っていますか?」という質問によると,60人の生徒が修学旅行の中で龍踊の印象を一番強く受けたことがわかるり,「達成感」「思い出づくり」という効果は得られたようであると推察する。またH中学校では校区内で地元の伝統芸能に取り組んでいる生徒が多いことで,伝統文化への興味は一段と高かったようだ。

K中学校は残念ながら回答が得られなかった。

Y中学校では「長崎の人との交流」「異文化学習」を重視したようである。長崎の人とふれあいを持ち,長崎の文化を知るというねらいは,F中学校と同じく特異性を求めるものであり,そこから普段とは違うふれあいの中での得ることができる人間関係や,伝統文化を知ることによっての広い知見と豊かな情操を育むことが期待できる。龍踊体験は長崎が誇る伝統文化であり,龍踊体験では河野氏をはじめとする地元のインストラクターが指導にあたるので,「長崎の人との交流」「異文化学習」という点は満たされたのではないだろうか。

C生徒の取り組みについて

この問いでは生徒の取り組みの様子について「意欲的であった」「意欲的でなかった」「満足していた」「不満足」「うまくできた」「困難であった」「その他の気づき」の中から2つまでを選択してもらった。

どの学校においても「意欲的であった」と「満足していた」の回答であり,生徒の意欲や満足感を学校側も感じることができたようだ。

D生徒の変容について

この問いでは,龍踊体験によるものと思われる生徒の変容の有無を調査した。F中学校は明確な変容がみられなかったが,他の4校ではいくつかの変容がみられたようである。

その内容は「充実感」の現れや,「協調性」や休みがちの生徒の登校日数が増えたという「生活意欲」の高まり,更に龍踊体験をきっかけに仲良くなった友人とのクラスの枠を超えた「ふれあい」もうまれたようである。

E今後,龍踊体験学習を実施する可能性について

「可能性は高い」「実施してもよい」と回答した学校は3校であり,他の2校は「可能性は低い」という結果であった。「可能性は低い」と回答した学校の回答理由は,両学校共に「他の学年ではわからない。」という内容であった。

F指導の厳しさについて

一覧表には加えなかったが,全ての学校が指導の程度は適切であったと回答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

17A中学校の体験の様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

W−5.参考データ(小学生と高校生)

 参考として,龍踊体験に参加した小学生と高校生の1校ずつに同じ調査を行った。

○G小学校(18)

()龍踊を行うことを楽しみにしていましたか?

 ほとんどの児童が楽しみにしていたようである。

()練習はきついと思いましたか?

 中学生に対しては少々多い62%の者が厳しさを感じたようであるが,小学生には難しすぎる体験であるというわけではないようだ。

()動きや演奏は難しかったですか?

 85%の児童が困難さを感じたようである。やはり,中学生よりはその割合は高い。

()龍踊を行って気持ちは盛り上がりましたか?

 ほとんどの児童が気持ちの盛り上がりを感じることができた。

()自分の役割は十分に果たせましたか?

 G小学校全員が役割の認識と責任を感じ,それに従って行動できたようである。

()すばらしい出来ばえでしたか?

 ほとんどの児童が,すばらしい出来ばえであったと回答しており,満足感・達成感を得られたものと考える。

()わざわざ長崎でしなくてもよかったと思いますか?

 ほとんどの児童が長崎で体験することの意義を感じている。

()龍踊体験をきっかけに友だちとの仲がもっと良くなったと思いますか?

 66%の児童が良くなったと回答しているが,中学生と同様に大きな効果は認められなかった。

()友だちと協力することを楽しく思いましたか?

 ほとんどの児童が協力することに楽しさを覚えている。

(10)修学旅行の中で龍踊が一番印象に残っていますか?

 他の活動がどのようなものであったのか調査に至らなかったが,半数以上の者が一番印象に強く残っている。

(11)もう一度やってみたいですか?

 無回答の者を除くと全員が「またやりたい」と回答した。

○T高等学校

()龍踊りを行うことを楽しみにしていましたか?

 83%と,多くの者が体験を楽しみにしていたようである。

()練習はきついと思いましたか?

 「きつい」と回答したのは31%で,小学生や中学生よりは割合が低い。

()動きや演奏は難しかったですか?

 体験の困難さを感じた生徒は43%で,これも中学生や小学生に比べると低い割合である。

()龍踊を行って気持ちは盛り上がりましたか?

 多くの生徒が高揚感を感じたようである。

()自分の役割は十分に果たせましたか?

 多くの生徒が自分の役割を認識し,責任をもって行動したようだ。

()すばらしい出来ばえでしたか?

 多くの生徒が満足感・達成感を感じたようである。

()わざわざ長崎でしなくてもよかったと思いますか?

 約8割の生徒が,長崎で体験することの意義を感じている。

()龍踊体験をきっかけに友だちとの仲がもっと良くなったと思いますか?

 多くの生徒がこの体験を友だちづくりの場として活用できたようだ。この結果は中学生,小学生よりも高い割合を示している。

()友だちと協力することを楽しく思いましたか?

 多くの生徒が協力することを楽しく思ったようだ。協調性が高まったものと思われる。

(10)修学旅行の中で龍踊体験が一番印象に残っていますか?

 半数以上の生徒が「一番印象に残っている」と回答したが,他の企画の調査には至らなかった。

(11)もう一度やってみたいですか?

 中学生や小学生に比べるとバラつきは大きい。年齢による体力,時間,機会等の違いによるものと考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

X.総括

 本研究では,長崎広域体験学習のプログラムの1つである龍踊体験に参加した修学旅行生が体験を通してどのような学習効果を得たのかを調査・研究した。また,学校側へのアンケートによって,学校側の体験参加へのねらいを明らかにし,取り組みへの関連を調査した。

 結果を要約すると以下の通りである。

()意欲,興味・関心

 多くの体験者に事前の意欲,興味・関心がみられた。しかしながら,学校側の取り組みの違いによって,その差がでていることがわかった。

()厳しさ

 約半数の体験者が活動の厳しさを感じたようである。龍踊体験は,楽すぎず・きつすぎずのほどよい程度の体験であると言える。

()困難さ

 多くの体験者が活動の困難さを感じたようである。しかし,そのことが()で示す満足感・達成感をより高めることになったと考える。

()高揚感

 ほとんどの体験者が高揚感を感じたようである。龍踊体験は体験者の心を大いに動かすことができる活動であると言える。

()役割認知と責任

 ほとんどの体験者が自分の役割を認知し,それに伴った行動ができたようである。役割認知と責任を感じることで,()にも示すように,協調性がうまれ,集団の中のいち個人として自身をみつめることができたのではないかと推察する。

()満足感・達成感

 ()にみられる事前の期待が大きかったこと,更に()()にみられる活動が厳しく困難であったことにも関わらず,満足感・達成感を感じた体験者は多い。龍踊体験は期待度,厳しさ,困難さ,満足感・達成感がうまく関連した体験であると考える。

()長崎での意義

 多くの体験者が長崎ですることに意義があると感じている。長崎広域学習事業の発展が期待できる。

()仲間づくりの効果

 約半数が仲間づくりの効果を感じているが,龍踊体験を直接のきっかけとして友だちとの仲が発展するという効果は,誰もが得られるものではないようである。

()協調性

 多くの体験者が協力することを楽しく思ったようだ。学校側のアンケートからもみられるように,合唱コンクールに向けてのクラスのまとまりが強まるなど,その後の生活態度にも影響を与えたようである。

(10)特異性・インパクト

 4分の3の体験者が龍踊体験の特異性・インパクトを感じたようだ。特異性・インパクトが大きい程,今回の体験で得た学習効果の継続への期待が高い。

(11)継続性

 多くの体験者が「またやりたい」と回答した。このことからも龍踊体験を今後も実施し続ける意義は大きい。

 

 また,学校に対する調査では,各学校が龍踊体験に参加するにあたってのねらいは達成感を味わう,思い出をつくる,人とのふれあいをもつ,異文化を知るというものであり,これらは生徒の体験における成果・効果と一致したことがわかった。更には,休みがちの生徒の登校日数が増えるというねらい以上の効果を得た学校もあったようである。つまり,龍踊り体験は学校側の学習のねらいを十分に満たすことができている体験学習である。

 以上のように,龍踊体験は小学校,中学校,高等学校を問わず,様々な学習効果が期待できる修学旅行にふさわしい体験学習プログラムであると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Y.今後の課題

 今回の研究では,修学旅行における龍踊体験に参加することで様々な学習効果が得られることがわかったが,それらの学習効果が継続性のあるものかの調査には至らなかった。

 また,各学校が修学旅行において龍踊体験の他にどのような企画を実施したのかを調査できなかったため,他の体験プログラム或いは自主見学等の体験型プログラム以外の活動との学習効果の比較にまでは至らなかった。

 龍踊体験における学習効果の継続性について,また龍踊体験と他のプログラムの学習効果の比較について研究する必要があると考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Z.参考・引用文献

1)文部科学省『小学校学習指導要領解説 特別活動編』1999

2)文部科学省『中学校学習指導用領解説 特別活動編』1999

3)藤澤安良『体験型観光のすすめ』株式会社観光経済新聞社発行 2003

4)第2回全国ほんもの体験フォーラムinわかやま実行委員会『第2回全国ほんもの体験フォーラムinわかやまパンフレット』

5)長崎市観光宣伝課 長崎体験学習プログラム案内パンフレット『長崎体験学習』2006

)財団法人日本修学旅行協会『臨時増刊 修学旅行』1969

7)財団法人日本修学旅行協会『修学旅行のすべて2005(平成十七年) Vol.242005

8)Benesse教育研究開発センターVIEW21 http://benesse.jp/berd/center/open/kou/view21/2003/12/

9)()全国修学旅行研究会 http://shugakuryoko.com/

10)ぜっと屋HP http://www4.cncm.ne.jp/zya/taiken.html

 

 

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